【万年筆用語】インクの「Shade」「Sheen」「Shimmer」について
上の画像はイメージ、サムネイル用です。
当記事で使われている全ての画像は、プロの写真家で万年筆コレクターのJohn Bosleyさんから許可を得て掲載しています。
この方は万年筆に関するブログとinstagramもやっているので、ぜひ下記のURLから、もしくは右下のリンクリストからアクセスしてみてください。
These beautiful photos are reprinted by courtesy of the author.
I would like to express my gratitude to John.
http://fountainpenlove.com/
インクのレビューでよく使われる用語に「shade」「Sheen」「Shimmer」というものがあります。
これらは「ing」がついて「shading」「sheening」「Shimmering」と書かれることも非常に多いです。
「ing」があるかないかで意味そのものが変わることはないようです。
それぞれの意味は
- 「Shade」=「シェード、シェーディング、濃淡、陰影、明暗」
- 「Sheen」=「シーン、シーニング、光沢、輝き、つや」
- 「Shimmer」=「シマー、シマーリング、キラキラ光る、きらめき」
しかしこれだけでは全く想像がつかないと思います。
そこで出来る限り分かりやすくまとめることにしました。これらは万年筆特有の現象で、極めようとしたりのめり込んだりする方がとても多いものです。この記事が造詣を深めるきっかけになれれば幸いです。
相当長い記事なので、読むのが面倒な方は最後のまとめをご覧ください。
※大前提として、これらの現象の度合いは状況によって異なります。一部のインクでは全くといっていいほど見られず、逆に一部のインクでは異常なほど発生するものです。さらに使用する万年筆、紙質、書き方、光の当たり方も大きく影響するものです。
どのように定義するか、どのように分類するかは海外でも議論になるほどですので、その際は熱くなり過ぎないようにお願いします。
これらの現象は化学反応によるものと言われていますが、管理人はその手の知識が全くないのでここで説明することはできません。
また海外の掲示板では「元々の言葉通りの意味」で使われているときと「万年筆の用語」として使われているときがあります。この場合は前後の文や話題に挙がっているインクの特性から推察するしかないと思われます。
「Shade」「Shading」について。
「Shade」「Shading」は上の画像のように筆跡に濃淡がつくことを指します。
この現象は筆跡の一部にインク溜まりが出来ることで生じると言われています。つまりその部分だけインクがたくさん出て濃くなるということです。 画像の一行目に書かれた「Waterman」の文字では「t」が「e」よりも濃くなっています。
二行目の「Diamine」の「D」と、三行目の「Rhodia」の「R」では、たった一文字の中で濃い部分と薄い部分が生じています。
このように濃い文字と薄い文字が出来ることもあれば、文字の中で線が濃くなったり薄くなったりもします。
※シェーディングと後述の「Sheen」は両方とも成り立ちます。同様にシェーディングと後述の「Shimmer」は両方とも成り立ちます。
シェーディングが発生する条件は三つあります。
- 濃淡の出やすいインク。
- 太字、軟調、フレックスなどのニブ。
- インクが留まりやすい紙質。
傾向としては文字の下側や面積が大きい部分が濃くなりやすいと言われていますが、慣れると色々な表現が出来るようになります。
1.濃淡の出やすいインク。
濃淡の出やすいインクですが、オレンジ系やブルー系でよく見られます。この二色に近ければ近いほどシェーディングが発生しやすく、遠ければ遠いほど発生しにくくなる傾向にあると見られています。例えば色彩雫のツキヨやコンペキ、セーラー金木犀、Diamine marineなどです。(これはあくまで傾向であって必ずしもこうなるとは限りません。繰り返しになりますが一概に言えるものではありません。)逆にインクの性質が「一定の色合いを維持するような場合」や「インクフローが安定している場合」は発生しにくいでしょう。色でいうとブラック系があまり濃淡がでないタイプとなります。例えばプラチナカーボンブラックやwaterman blackなどが該当します。なのでシェーディングを出したくない方はこのようなタイプのインクを使用するといいかもしれません。
2.太字、軟調、フレックスなどのニブ。
これらのニブはインクの溜まりを作りやすいと言われています。もちろん中字以下でも可能ですが、やりやすいニブとなると太字、軟調、フレックス系となります。
柔らかいニブで筆圧をかけると表現の幅が広がりますが、力を入れすぎてニブを痛めないように細心の注意を払って行ってください。
3.インクが溜まりやすい紙質。
これはインクの乾きが遅いもの、吸収が遅いものを選ぶと良いでしょう。遅ければ遅いほどインクが溜まりやすくなるので、意図的に薄い部分と濃い部分を作り出すことができます。
海外ではトモエリバー、MDノート、Rhodiaが書きやすいうえにシェーディングを出しやすいと高評価を受けています。
以上を踏まえたうえで、紙とインクは同じものを、万年筆だけは太さの違うものを使用して書いた場合がこちらの画像になります。
左の筆跡のほうが右の筆跡よりも濃くなっています。
自分が求めている濃淡が簡単に出せることもあれば、何度やってもうまくいかないこともあります。
好きな色合いが出せる組み合わせを探すのはとても大変で、やり出すと沼にハマってしまうでしょう。
奥が深いものですが、ぜひ楽しんでほしいと思います!
「Sheen」「Sheening」について。
こちらの画像で使用されているインクは色彩雫ヤマブドウなので本来の色は紫系ですが、上部の四つの点には金色の光沢がはっきりと出ています。またその下の「iroshizuku」の文字の一部にも若干の光沢が生じているのが見てとれると思います。
このようにインクの一部が「本来のインクの色と違う輝き方をするもの」のことを「Sheen」「Sheening」といいます。
金属的な光り方をするインクが多く、organics studio walden pondというインクであれば緑系の色に加えてメタリックレッドのような赤色の光沢が出ます。
※「Sheen」の効果が表れるインクの中には、後述する「Shimmer」の性質を少しだけ持つものもあります。もちろんその逆もあります。両方の性質を持つインクをどのように分類するか、言い表すかは人によって違います。
この現象はインクが乾いたあとに斜めから光を当てることで見られます。その角度はまちまちなので、実はシーニングインクを使用していることに気づいていない方もいます。また気づいていたとしてもそれを撮影するのは非常に大変な作業となります。
そしてそれ以上に大変なのが「光沢が出るように書く」ことです。ごくごく普通に書くだけでは筆跡に綺麗な光沢を出すことは出来ません。やり方は一言でいうと「インクをたっぷり使うように書いてじっくり乾かす」だけですが、これは濃淡をつけるよりも難しいことだと思います。
必要な条件はシェーディングと似ていますが、優先順位でいうと一番大事なのはシーニングの性質を持つインク、相性の良い紙です。
こちらも一つずつ順番に説明していきます。
1.シーニングインクを使う。
まずはこれがないと何も始まりません。色彩雫ヤマブドウ、organics studio walden pondの他にも、色彩雫モミジ、セーラー山鳥、diamine majestic blue、Private reserve ebony blueなどがあります。ちなみにセーラー山鳥はシェーディングインクとしても名前が挙げられます。
もっと知りたい方は「sheen ink」や「sheening inks」で検索してみてください。
※没食子インクのようにニブを腐食させたりダメージを与えるものはないと思われますが、念のため購入前に確認をしてください。
一部のインクでは、光沢を出す原料がボトルの底に沈殿することがあります。泡立たせないように振ってから使用してください。ペンに気泡を入れてしまうとインクフローが悪くなります。
これについては後述の「shimmer」と似ているのでこちらから飛んで確認してください。
2.乾きにくい紙に書く。
光沢はインクがゆっくりと乾いていくことで発生します。そのためインクが乾きやすいもの、吸収率が高いものは使わないほうがいいでしょう。決して光沢がでないわけではありませんが、向いているとは言えません。
相性が良いと言われているノートはシェーディングと同様にトモエリバー、MDノート、Rhodiaなどです。他にはコクヨのmiopaperとエッジタイトルも合うと言われています。
3.どんなニブが光沢を出しやすいか。
光沢を出すにはインクをたっぷり使うこと、インクをどんどん出すことが重要になります。なのでインクフローが良い万年筆であれば適していると言ってもいいでしょう。ニブのサイズはあまり関係ありません。太字でも細字でも軟調でもスタブでも構いません。
ドライペンではなくウェットペンであれば大丈夫です。
ただし、「どのような光沢を作るか」ということになると話は変わってきます。細い線の縁を取るように光沢をつけるのか、全体をギラギラと輝かせるのか、目的によってはニブのサイズは無視できない問題になります。もちろん書き方も大事になってきます。
※細字や極細のペンに異常な光沢を放つインクを入れた場合、インクフローが悪くなってしまい十分なメンテナンスが必要となる可能性があります。これについても上記で書いたように「shimmer」と似ているのでこちらから飛んで確認してください。
ここまで光沢の出し方について説明してきました。
次はいくつかの画像でシーニングの違いを確認していきます。
二つの画像は紙質の違う用紙に、同じインク、同じ細字のペンを使用して書いたものです。使われているインクはj.herbin 1670 emerald of chivorになります。(このインクは「shimmer」の性質を少しだけ含むインクです。)
上の画像がトモエリバーで、下の画像がレーザープリンター対応コピー用紙です。管理人はレーザープリンターの用紙を使ったことがないのでインクの乗り方がどのようなものかは分かりません。
明らかにトモエリバーのほうがきれいな光沢が出ています。下の画像のほうは一部が少しだけ光っているような感じがするといった程度でしょう。
このように同じ条件でも紙質が違うだけで光沢の出方が大きく異なります。
こちらの画像は両方ともレーザープリンター対応のコピー用紙と色彩雫ヤマブドウを使用したものになります。
ただし上は太字のニブ、下は細字のニブです。
ニブのサイズが違っていても光沢は出ています。しかし文字の太さ、シェーディング、シーニングが発生している面積にはニブの違いが表れていて印象が大きく異なっています。
シェーディングと同じように、筆跡に光沢をつけるには組み合わせが重要になります。
さらに組み合わせが完璧でも筆づかいで光り方が変わります。自分にとって会心の出来になることもあれば、残念な結果になってしまうこともあります。
身も蓋もない言い方になりますが、慣れることと自分の理想とする組み合わせや筆の運び方を見つけることが大切です。
「とりあえず光沢を見たい」「光り方の確認をしたい」という方にはインクスプラッシュがオススメです。
スプラッシュは水風船を割ったような飛び散り方のことを指します。この項目の一番最初に貼った画像や以下の画像のような飛び散り方のことです。(スプラット、スプラッターとも言われています。どれが一番正しい言い方かは分かりません。好きな言い方でいいと思います。)
これは線や文字を書くよりも大量のインクを使用するので、インク溜まりになりやすく光沢も発生しやすい状況を作ることができます。しかしその分しっかりと乾かさなければなりません。インクの塊を紙の上に落としているようなものですから、最低でも10分から20分は乾燥させてください。
やり方はインクをスポイトや注射器などで吸ってから紙の上に勢いよく出すだけです。ストローの先端にインクをつけて吹き矢のように飛ばしてもと思います。どれを使うにしても出すときの勢いを優しくしたり、もっと早くしたり、高いところから優しく落としたり、色々と調整しながらやってみてください。服や床が汚れる可能性が高いので新聞紙やタオルを準備してから行ってください。
※あくまで比較的簡単というだけで必ず光沢が出るとは限りません。
「Shimmer」「Shimmering」について。
「Shimmer」「Shimmering」は上の画像のように筆跡がキラキラ光っていることを指します。
これはインクの中にラメが入っているため起きています。Glitter(グリッター)と言われることもあります。化学反応で発生するシーニングとは似て非なるものなので、インクフローさえ良ければ現象そのものが紙質やペンに大きく左右されることはありません。
ラメ入りのインクはdiamineがshimmer inkを二十種類ほど販売しています。j.herbinからも五種類ほど発売されています。
詳しく知りたい方は「shimmer ink」などで検索をかけてみてください。
手軽にキラキラ光る文字を書ける反面、気をつけなければならない点もあります。(一部のシーニングインクもこれに該当します。)
まずインクに入っているラメは言わば異物です。ボトルの内側にこびりつき、底にも沈殿します。泡立たせないように振ってから使用してください。ペンに気泡を入れてしまうとインクフローが悪くなります。
ペンにインクを入れた後でも異物は異物です。場所がボトルの中からペンの中に移っただけです。ラメはすぐに沈殿しようとするのでペンの上下をシーソーのようにゆっくりと入れ替えたり、木の棒で火起こしをするように手のひらでゆっくりと転がしてください。
※これらの作業は全てゆっくり優しく行ってください。思いっきり振ったり素早く動かしたりすると、キャップの中でインクが溢れてしまったり気泡が出来てインクフローを悪くします。
さらにメンテナンスも重要です。
あちこちにラメがくっついてしまうので、どれだけ気をつけていても目詰まりを起こします。
基本的にこういうタイプのインクは入れっぱなし、使いっぱなしにはしないことが重要です。使う分だけ入れて、使い終わったら出来るだけ早めに洗うことを心がけてください。
通常のメンテナンスだけでは完全には取り切れないので、ニブを分解して歯ブラシを使ってラメを落としてください。
ラメ入りのインクを使ったらその日のうちにメンテナンスをしないと詰まるという方もいれば、何日間かは置いておいても問題ないよという方もいます。なので自分の環境にあったタイミングでメンテナンスをしてください。
こちらの動画の0:43あたりからメンテナンスや使用前の沈殿についての説明があります。英語ですが内容は上記で書いたとおりのことを言っているので、イメージの補足としてご覧下さい。
非常に面倒なインクであることは間違いありません。しかしとても楽しいインクであることも事実です。
組み合わせによって度合いが変化するのは当たり前ですが、大体はウェットペンのようなインクフローの良いものであれば文字をキラキラと光らせることができます。傾向としてはニブが太くなるにつれてキラキラ感が増していきます。もちろん軟調、フレックス、スタブのような変わったタイプでも色んな表現ができます。
他のインクと同じように自分だけの組み合わせを見つけて楽しんでください。
※シマーリングの効果が表れるインクの中には、シーニングの性質を少しだけ持つものもあります。もちろんその逆もあります。両方の性質を持つインクをどのように分類するか、言い表すかは人によって違います。
没食子インクのようにニブを腐食させたりダメージを与えるものはないと思われますが、念のため購入前に確認をしてください。
まとめ。
ここからは三つの用語の簡単なまとめになります。最後はシーニングインクとシマーリングインクの見分け方についてです。
この二つはパッと見ただけでは判断できないことがあります。
こちらの画像を使って簡単に説明します。
上の画像は色彩雫ツツジ、下の画像はdiamine blue flameを使用したものです。
どちらがシーニングインクでどちらがシマーリングインクだと思いますか?
答えは色彩雫ツツジがシーニングインクでdiamine blue flameがシマーリングインクです。
ツツジは一部に光沢が出ているのでシーニングと言えますが、筆跡全体はラメが入ったようにキラキラしていないのでシマーリングとは言えません。
一方のdiamine blue flameは筆跡が星を散りばめたように光っているのでシマーリングとなりますが、光沢はどこにも出ていないのでシーニングではありません。ただdiamine blue flameはトモエリバーなどの紙にたっぷりインクを使って書くと赤色の光沢を放つことがあります。つまり「シーニングの性質を少しだけ持つシマーリングインク」と言えるでしょう。
この記事は加筆修正する場合があります。
引用元:http://fountainpenlove.com/fountain-pen-ink/what-is-sheen-in-fountain-pen-ink/
引用元:http://fountainpenlove.com/fountain-pen-ink/difference-between-sheen-and-shimmer-in-fountain-pen-ink/
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